小説「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」作者の大前粟生さんと世界や日常の「いま」についてあれこれ考えたり物語にしたりする会

講座内容

 出会いは金子由里奈監督の映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(通称「ぬいしゃべ」)でした。この映画は、俳優の細田佳央太さん演じる男性が、彼自身の加害性、無自覚なままに誰かを傷つけてしまうかもしれない存在であることに戸惑い苦しむ話でした。

 こんなすごい映画を、まず、2023年4月という時に公開してくれた、金子由里奈監督の情熱と実行力に感謝しています。

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 そして、多くの人が感じていることでしょうが、いま世界は変わりつつあります。しかも急激に。

 とくに、2023年は、ジャニーズ歌舞伎、宝塚、吉本という日本芸能界の権威として君臨し続けたものたちの「問題」が暴かれた年でした。もちろん、この追及と変化は始まったばかりです。しかし、そんなことがあるとは思いもしなかった5年前から考えると、世界は急激に変わっていますし、みんなの意識が変わっていることは間違いないと思っています。


 この変化に抵抗する人たちもいますし、中には、こんな変化は一時的なもので、そのうち皆忘れるから、いまだけ黙っていれば大丈夫。と言う人もいるようです。しかし、そう言う人たちは、今まで押し潰されてきた人たちが勇気を出し声を上げることでようやく作り出したこの時代の波を侮っていると思います。もうこの流れは止まらないし、止めてはいけないんです。

 映画「ぬいしゃべ」を見てから大前粟生さんの原作「ぬいしゃべ」を読みました。

 原作「ぬいしゃべ」は、2023年4月の映画公開のちょうど三年前、2020年3月に出版されています。

 読んで、まず、本当に素晴らしかった。

 なによりも、この原作「ぬいしゃべ」に会うまでの私は、「結局、男性は女性にはなりえないわけで、つまりフェミニズムを自分のこととして実感することはできないんじゃないか」と悩んでいました。しかし、この作品に出会い、強い衝撃を受けました。フェミニズムに相当する男性側の問題が、男性作家の手によって描かれていたからです。それは結局なにかというと、私たちが向かうべき場所は「弱さの肯定」ではないのかということです。

 逆に「弱さを肯定できない」としたならば、「力の強い者が勝つということを認めなければいけない」世界になります。「弱い人はかわいそうだけど踏みにじられても致し方ない」ということになってしまう。身体的に、そして社会的に弱い立場に置かれる人が、他人に「弱いお前が悪い」と言われたり、「弱い自分が悪いんだ」というふうに自分自身を責めるのが当たり前になってしまう。しかし、それでいいんでしょうか?「弱いというだけでその人の人権が強者に踏みにじられる」そんな世界で良いんでしょうか? 良いわけがないですよね。弱い人が無理して強くならずとも尊重される世界。強い人が自分の加害性に自覚的でありつつ、それでも、人と真摯に対峙することを諦めない世界。そういった世界の到来を願う。2020年に発売された「ぬいしゃべ」は、そういう話のように感じました。


 そして強い人たちの傍若無人がようやく指摘された2023年、それを越えての2024年。ようやく「ぬいしゃべ」的な世界が訪れようとしているようにみえます。そういう変化の過渡期がいまなんだと思っています。もう強い人が弱い人をイジメて良かった世界に戻ることはないし、むしろ戻ってはいけない、進むしかない。そういう時代になっている。ついにそれがやってきた。それを思う時、そういう世界の到来を真っ先に描いた大前粟生さんの作品を私はとても尊いと思います。
 
 原作「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」が出版されて1年半後、2021年9月2日、ジェーン・カンピオン監督の「パワー・オブ・ザ・ドッグ」がヴェネツィア映画祭で初披露されました。この映画は自分の弱さを隠して強くなったふりをしていた粗野な男が、弱い男を愛してしまい、最後にはその男に殺される話です。これは、ここに描かれていることは、一体なんなんでしょうか。おそらくフェミニズムの進行の前に、男性たちの「弱さの告白」が始まったのだと思います。

 大前粟生さんは、そんな世界を、先駆けて切り取っている小説家です。『ぬいしゃべ』だけでなく、「笑いに潜む暴力性」と向き合った『おもろい以外いらんねん』(2021年1月)。自分の男性性に怯える主人公が「本当に対等な恋愛」とは何かを突き詰めようとする『きみだからさびしい』(2022年2月)。女性幽霊と女子高生の社会への復讐とシスターフッドを描いた『死んでいる私と、私みたいな人たちの声』(2022年7月)。そして2024年1月26日に出版されたばかりの、『チワワ・シンドローム』。これらを読めば、大前さんの先進性、「いま」を「いま」以前に描いていることのすごさが分かると思います。

 今回シバイバでは、その大前粟生さんを講師に迎え、なんと毎回創作発表をやります。毎回の終わりにお題が出され、次回までにそのお題をテーマにした作品を全員が書いて提出、当日までに読み合って、ああだこうだと批評し合う。しかも、しかもですよ。大前粟生さんも毎回新作を書いてきてくださるっていうんだから、 なんと贅沢なんでしょう!!!。あるお題をみんなならどう掘り下げますか?そして大前粟生さんならどう掘り下げるんでしょうか? そういう探求の場、創作の秘訣も分かる。そういった画期的な場がこの講座です。こんなチャンスは滅多にない。少人数制となっていますので、ぜひお早めにお申し込みください。


本講座に対する大前粟生さんからのメッセージをいただきました。

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どのような人向けの講座か

・作家になりたい人

・大前粟生さんと一緒に創作を模索したい人

・楽しんで創作したい人

・映画や演劇やドラマ、小説、漫画などの力を信じている人

・シバイバで学び、意義ある作品を作り、より良い社会になることを望んでいる人


参加の条件

・あらゆる人間の人権を擁護する立場につくこと。

・どのような人も、ハラスメントをする側にも、される側にもなる可能性があります。自分の行動や言動が相手に不快な思いをさせる可能性があります。そのことを承知し、自らの行動や言動が他人を不快にさせていないかに関して注意深くあること。

・本講座は日本語で行われます。日本語を聞き取り、日本語を話し、日本語でコミュニケーションをとる能力を持っていること。

・他人を自分と同じひとりの人間と認め、その個性とアイディアを尊重すること。

・他人のアイディアを盗まないこと。他人のアイディアを利用する場合は本人もしくはしかるべき相手の了解を得ること。また了解を得たことを作品などに明記すること。

・経験や年齢、ジェンダー、国籍は問いません。

・参加希望者が未成年であった場合、保護者の了承が必要です。

・暴力団員、暴力団準構成員、これらと密接な関係を有する者、その他の反社会的勢力でないこと。

・今回最終的に作品の企画を提出し、短編シナリオを書いてもらうことになりますが、企画書やシナリオ執筆の経験や企画書やシナリオの書き方を知っている必要はありません。

・本講座の受講を希望される方は、必ず以下の規約をご確認ください。受講手続きを行うことをもって、本規約に同意したものとみなします。

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テキスト

事前に用意するべきテキストや参考文献などはございませんが、大前さんのご著書を読んでおくとより理解が深まるかと思います。

大前粟生 著「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」文庫版kindle版

大前 粟生 著「チワワ・シンドローム」(単行本版)

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大前 粟生 著「チワワ・シンドローム」(kindle版)

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<以下、参考図書>

大前 粟生 著「きみだからさびしい」(単行本版)

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大前 粟生 著「きみだからさびしい」(kindle版)

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大前 粟生 著「死んでいる私と、私みたいな人たちの声」(単行本版)

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大前 粟生 著「死んでいる私と、私みたいな人たちの声」(kindle版)

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講師

講師名

大前 粟生
おおまえ あお

講師略歴 1992年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部卒業。2016年、短編小説「彼女をバスタブにいれて燃やす」が『GRANTA JAPAN with 早稲田文学』公募プロジェクトで最優秀作に選出されデビュー。「ユキの異常な体質 または僕はどれほどお金がほしいか」で第二回ブックショートアワード受賞。「文鳥」でat home AWARD大賞受賞。2020年に刊行された『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は2023年に金子由里奈監督により映画化。2021年、『おもろい以外いらんねん』で織田作之助賞最終候補。同年、『岩とからあげをまちがえる』が日本タイトルだけ大賞を受賞。
作品歴・著書歴など 「チワワ・シンドローム」(文藝春秋、2024年1月)
「死んでいる私と、私みたいな人たちの声」(河出書房新社、2022年7月)
「柴犬二匹でサイクロン」(書肆侃侃房、2022年4月)短歌集
「まるみちゃんとうさぎくん」(ポプラ社、2022年3月)絵:板垣巴留
「きみだからさびしい」(文藝春秋、2022年2月)
「ハルには はねがはえてるから」(亜紀書房、2021年6月) 宮崎夏次系との共作絵本
「おもろい以外いらんねん」(河出書房新社、2021年1月)
「岩とからあげをまちがえる」(ちいさいミシマ社、2020年12月)
「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(河出書房新社、2020年3月/河出文庫、2023年1月)
「私と鰐と妹の部屋」(書肆侃侃房、2019年3月)
「回転草」(書肆侃侃房、2018年6月)

講座スケジュール

               
第1回 3月3日(日) 18:00-20:00 これからやる内容についてのお話
第2回 3月17日(日) 18:00-20:00創作と合評
第3回 3月31日(日) 18:00-20:00創作と合評
(企画提出) 4月4日(木) (6月末公演の企画書提出)
第4回 4月14日(日) 18:00-20:00 創作と合評
第5回 4月28日(日) 18:00-20:00創作と合評
(脚本提出) 5月6日(月) (初稿提出)
第6回 5月12日(日) 18:00-20:00創作と合評
(第二稿提出) 5月25日(土) (第二稿)
第7回 5月26日(日) 18:00-20:00創作と合評
(演劇公演) 6月25日から6月30日まで 参加者のシナリオを短編演劇として上演。観客投票によって最優秀作品には50万円が与えられます。
第8回 7月7日(日) 18:00-20:00 作品を書き上げたうえでの課題、総括

・本講座を通して作品創作を希望される受講者の方には、事務局が指定する期日までに企画書を提出していただき、その後、最終的には短編シナリオを完成していただきます。
優秀シナリオについては、事務局の指定した演出家か、あるいはご自身で演出していただき、短編演劇として、6/25から6/30までの6日間、他の講座や他の参加者の作った作品とともに、築地本願寺ブディストホールにて披露していただきます。この短編演劇祭では、作品の内容にちなんだ著名ゲストをお呼びし、観客投票により最優秀作品を1つ選びます。賞金は50万円です。

・本講座を通して出来上がった短編シナリオは、これから開発する新しい映画やドラマなどの火種となるものです。最優秀作品賞を受賞した作品はもちろん、それ以外の上演作品、また上演には至らなかった作品なども、講座終了後も、事務局および講師は、映画化やドラマ化、あるいは小説化や漫画化やゲーム化に向けて、企画開発および営業の手助けを継続的にさせていただきます。特に、本講座では小説家大前粟生さんに講師をしていただくので、小説として出版することを目指したいと思っています。

・初回講座の申し込み締め切りは、3月2日18:00です。ただし、定員になり次第打ち切ります。


・OBSERVERとして本講座を聴講することによって知り得たアイデアをご自分の作品(プロデュース作品、演出作品、執筆作品、企画作品など全て)で利用したい場合は、必ず、シバイバ事務局を通して、講師及びMEMBER(対面講座での受講者)の事前承諾を得る必要があります。申し込みを行った時点で、このことを了承しているとみなします。

・授業内容のことでご質問がありましたら、事務局宛にメールでお送りください。全てのご質問にお答え出来るかわかりませんが、お答え出来るものにつきましては、授業内でお答えさせていただきます。

・初回講座の申し込み締め切りは、3月2日18:00です。ただし、定員になり次第打ち切ります。


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